334 研究施設の現状と将来計画
8-4 機器センター
8-4-1 機器センターの現状と将来
分子スケールナノサイエンスセンターと分子制御レーザー開発研究センターの汎用機器を統合して,平成19年4 月より機器センターが新たに発足した。機器センターでは化学分析機器,物性測定機器,分光計測機器,液体窒素・ ヘリウム等の寒剤供給装置と,大別して4種類の機器の維持・管理を行っている。また,いくつかの機器を化学系研 究設備有効活用ネットワークに公開しつつ,この事業の実務的な支援を行っている。機器センターの業務を円滑に運 営するために,センター長(併任)のほかに7名の専任技術職員(化学分析機器2名,物性測定機器1名,分光計測 機器1名,寒剤装置2名,化学系ネットワーク1名)と2名の非常勤事務職員(機器センター1名,化学系設備ネッ トワーク1名)を配置している。平成20年度からは分子スケールナノサイエンスセンターの透過型高分解能電子顕 微鏡の維持管理を主とする技術職員が機器センターに配置される。化学分析機器は山手地区の N M R ,質量分析装置, 元素分析装置,X線回折装置などで,物質合成を行う上で最低限なくてはならない装置である。物性測定装置は明大 寺地区の E S R ,S Q U I D 磁束計,X線回折装置,超伝導磁石付希釈冷凍機,走査型電子顕微鏡,熱分析装置など,新 たに開発した物質の物性を評価する上で必要な汎用装置である。分光計測装置は三種のレーザーシステムの他,蛍光 分光装置,紫外可視近赤外分光装置,円二色性分光装置などの汎用機器を保有している。機器センターの役割は研究 所内外の共同利用の支援である。技術職員が担当する機器は厳密に分担が区分けされているわけではなく,化学系設 備ネットワークの支援にも参加し,分子スケールナノサイエンスセンターの保有する機器の保守にも参加している。 共同利用の形態は施設利用であるが,現状では化学分析機器と寒剤は所内の利用者が主であり,所外の利用者は主と して物性測定機器を施設利用している。平成19年度の所外施設利用件数は57件であった。
機器センターの役割は汎用機器の維持管理と技術支援であり,研究系で開発しているような特殊な装置を保有して いるわけではない。昨今のように膨大な予算を駆使できる研究グループが増えて,機器も人も自前で調達できるよう になると,機器センターは必要ないようにもみえる。しかし,そのような研究グループが研究者コミュニティーに占 める割合は極僅かである。独創的な研究はむしろ研究費が必ずしも潤沢ではない少人数のグループから生まれること が多い。独創的な研究成果が世に認められれば,研究グループも予算も大きくなり,機器センターのような施設を必 要としなくなるかもしれないが,機器センターはそれら大きくなる前の研究グループを下支えし,飛躍を手助けする 役割を担っている。この役割は所内利用者に対しても所外利用者に対しても同じような意味合いを持っている。
機器センターの予算は現有の装置類を保守するためのものであり,老朽化に伴う機器の更新を定期的に行う予算は ない。高額の化学分析機器や汎用性の高い物性測定装置などは特定の研究グループに予算措置するのではなく機器セ ンターに予算を投入して,最高性能の機器を常に使用できる状態を構築する必要がある。機器センターはパルス E S R のような特殊装置も保有しており,共同利用を通して特色ある研究を展開している。化学系設備ネットワークを支援 しつつ,特色ある最高性能の機器も整備してゆく努力が必要である。
上のような精神で機器センターを運営すべきであると考えるが,機器センターは発足後ようやく一年を経過しよう としている段階であり,目前のいくつかの事項を解決してゆかなければならない。
(1) 緊急に立ち上げる必要のあるのは機器センターの事務室の整備である。現在,機器センターは事務室をもってい ないため,とくに明大寺地区の職員は極低温棟,レーザー棟,化学試料棟,研究棟に分散して仕事をしている。月二 回の会合以外には全員が顔を合わせる機会もないために,緊急の場合,お互いの連絡に齟齬をきたすことも生じてい る。化学試料棟を改修して平成19年度までに化学系設備ネットワーク用の事務室の整備を整えつつあるが,20年度 の早い段階に機器センター全体の事務室の整備を完成させる必要がある。
研究施設の現状と将来計画 335 (2) 現在,分子科学研究所の明大寺地区では平成元年に導入した神戸製鋼所の全自動液体ヘリウム液化装置を用いて, 年間約 4 万リットルの液体ヘリウムを供給している。この設備は導入後20年近くの時間が経過しようとしている。 この装置が使用不能になるとき山手地区のヘリウム液化機から液体ヘリウムを供給することが計画されているが,こ の計画を実行に移すためには明大寺地区で回収したヘリウムガスを山手地区へ移送するための地下埋設配管が必要で ある。この配管工事は事務的手続きを含めて長時間を要するため,液化機が使用不能になる前に工事を行っておく必 要がある。ヘリウムは全地球的に貴重な資源であるが,現在は全面的に米国に頼っている。米国でも資源保護の動き が出ており,この状況がいつまでも続くとは限らない。限られた資源をリサイクルするシステムを維持することは極 めて重要であり,早急な対策が望まれる。
(3) 機器センターは 15 テスラーの超伝導磁石を付属した希釈冷凍機を所有している。この装置は分子磁性や分子導 体など分子科学の分野で有用な装置であるが,汎用装置とは言い難い特殊な装置の部類に入る。現在,この装置を使 用する所内利用者がいないので,客員教授あるいは准教授として専門家を招聘して,冷凍機を用いた極低温下におけ る比熱や磁化などの測定装置の立ち上げを行う必要がある。
(4) 現在,西グループが使用しているピコ秒パルスレーザーシステムを将来機器センターに移管することの可能性を 検討している。維持のための予算や技術職員の配置などいくつかの問題を抱えているが,平成20年度中には目途を つける。
(5) 所外施設利用者を対象に機器センターについてアンケート調査を行ったところ,機器センターに対する期待は大 きく,機器の充実と旅費の増額に対する希望が多かった。所外施設利用者には半期に一件あたり2泊3日1回の旅費 が支給されるが,一回で目的が達成されるような実験は非常に少ない。半期の間に7,8回利用しているヘビーユー ザーに対しては旅費の支給を2回に増やすなどの方策が必要である。